ウシが足りない・・
東京へ出張中の1月31日付け新聞第一面に次のようなニュースが踊っていました。これは業界紙の第一面ではありません
初妊牛の市場価格が平均で72万円になったと言うものです。4年前に我牧場で30頭の初妊牛を導入した時は合計で1550万円(1頭当たり51万円)ほどだったので、今の価格だと2100万円ほどに成ってしまいます。相場と言うかタイミングと言うのはげに恐ろしいものです。
ではこの一年何故初妊牛の高騰が続くのか・・・。
1:全道的な酪農家の減少により子牛の供給数が減っている事。
2:肉用素牛のF1の相場も高価格で推移している(ぬれ子で25~35万円)ため、ホルスタインの授精が減少しホル♀の絶対数が減少しているため。
3:十勝では1000頭搾乳をする大規模牧場が次々と誕生している中、投資分を早く取り戻すため手っ取り早く搾乳が出来る初妊牛の導入を性急に進める事により、初妊牛の品薄感が影響しているのでしょう。
他にもいろいろ原因は有るのでしょうが、問題は先週調印されたTPPの問題です。今後TPPに依る影響を分析し国内対策を万全にし国会で議論、承認を得て発効するわけですが、政治家や評論家、マスコミはこぞって日本農業への影響は大きく農家の大半は営農を続けられなくなる。その対策はと言えば、高品質で安全な日本産の食糧を海外に有利に販売すれば・・とか六次産業化を支援し農家自から所得の増大を目指すべきとの議論が大半です。この論で行くと初妊牛やぬれ子の高騰で酪農家の所得はある部分補填されているとの議論が出て、政府の対策が相殺されてしまうのでは・・
つまりTPPの影響を農業界だけの問題として非常に矮小化された話になっていることが問題です。安倍総理がよく言っている言葉に「国の責任は国民の生命財産を守ることです!」というものが有ります。国民を飢えさせず命の源である食糧を安定的に供給する事も国の責任です。そのための39%の食糧自給率を50%あるいは45%に増大させようと言う政策があったにもかかわらず、関税を撤廃し自由貿易を!と言う旗の下に農業も放り出して輸出や高付加価値化などで農家も自立をしなさい、こういった議論に農業が馴染まないことは世界中が認めている所です。WTOの協議の中で農家に対する価格支持政策は黄色の政策で×。しかし農家が生き残るための直接所得保障は緑の政策として〇、として認められヨーロッパのみならずアメリカなどでも多くの国家予算がこの緑の政策に振り向けられているようです。世界の趨勢は自国の農業者を如何に守り如何に食糧自給率を落とさないか、そういった国民的合意が出来上がっているようです。それに引き換え、農家の手取りが増えた減ったと言った矮小化された議論の中では、初妊牛やぬれ子の高騰は一時的なもので、政治やマスコミに利用されると非常に怖いものと言えるのではないでしょうか?